【医師執筆】脊髄損傷による勃起障害と射精障害
「脊髄損傷で勃起障害なるなんて医者から説明されていないぞ・・・。」
「今後、どうやって性欲処理すればいいんだ・・・。」
「恋愛できるのか?性行為は?子作りは?」
脊髄損傷後の性機能障害を自覚した際、このような悩みや不安はありませんか?
実は、勃起障害(ED)をはじめとした性機能障害を高い確率で克服することができます。
なぜなら、脊髄損傷による性機能障害について数多く研究され、治療法が存在するからです。
私はED治療を専門にしたEDクリニックの院長で、日々EDで悩む患者様を診療しています。
この記事では、脊髄損傷による性機能障害の改善方法について教えます。
この記事を読むことで、脊髄損傷による制限があったとしても、充実した性生活を送ることができるかもしれません。
結論は、薬剤や器具の補助があれば性機能障害は高い確率で改善し、性行為・子作りも可能です。
また、パートナーと良好な関係を結び、身体的な制限を克服する工夫も大切です。
※この記事は仙石敦, 柳内章宏 性機能障害の実態と対策-性機能アンケート調査結果と勃起 ・射精障害の対策法- のアンケート結果を適宜引用しています。
【この記事の筆者】
神戸三宮バッファローEDクリニック
院長 栗本浩行
- 現役内科医 (循環器内科)
- 平成26年 弘前大学卒業
- 令和4年 バッファローCL 開設
✓ 脊髄損傷における性機能障害のアンケート結果
✓ 脊髄損傷における性機能障害の克服法
✓ 脊髄損傷患者の不妊治療の概要
◆目次◆
- 1.脊髄損傷による性機能障害
- 2. 勃起不全(ED)への対応
- 2-1. PDE5阻害薬
- 2-2. プロスタグランディンE1陰茎海綿体注射
- 2-3. 陰圧式勃起補助器具
- 2-4. 陰茎プロテーシス挿入
- 3. 射精障害への対応
- 4. 子作りへの対応
- 4-1. 生殖補助技術(ART)
- 4.2 精子へのケア
- 4-3. パートナーとの関係
- 5. まとめ
脊髄損傷による性機能障害
勃起障害(ED)
脊髄損傷によるEDの頻度
脊髄損傷は、高頻度で勃起障害を引き起こします。
脊髄が損傷し、勃起に関わる神経が損傷しているからです。
<脊髄損傷患者による性機能障害の頻度>
- 勃起が可能 62%
- 性交渉可能な硬度、持続力のある勃起が可能 25%
- 射精が可能 15%
引用)脊髄損傷患者のための社会参加ガイドブック Toghther 10
男性脊髄損傷患者の62%が「勃起を認める」と回答しました。
しかし、勃起を「硬く」「長く」持続させ、射精させることは極めて困難です。
「射精が可能」と回答した割合は、わずか15%でした。
心因性勃起と反射性勃起
勃起には大きく分けて、①心因性勃起、②反射性勃起の2種類あります。
①心因性勃起
心因性勃起とは、視覚、聴覚、触覚などの情報から脳(視床下部)が性的興奮を認識すると、勃起神経を通じて陰茎に信号を送り、その信号で陰茎が勃起する現象です。
手で陰茎に刺激を加えなくても、性的な妄想やAVの視聴で勃起する現象は、心因性勃起です。
信号を受けた陰茎が勃起するメカニズムはコチラで解説しています。
>>勃起のメカニズム
脊髄損傷により、心因性勃起障害は高頻度で生じます。
脊髄が損傷することで、脳(視床下部)から陰茎に信号が伝わりにくくなるからです。
<心因性勃起が「まったくない」「ほとんどない」と回答した割合>
- 完全麻痺の方 80%
- 不完全麻痺の方 48%
- 完全麻痺:損傷部位の運動機能が完全に消失し、感覚も消失している状態
- 不完全麻痺:損傷部位の運動機能や感覚が、完全には失っていない状態
<損傷レベルごとの心因性勃起障害の割合>
- 頸髄(C) 83%
- 上部胸髄(Th1〜6) 90%
- 下部胸髄(Th7〜12) 73%
- 腰髄(L) 75%
※完全麻痺で、心因性勃起が「まったくない」「ほとんどない」と回答した割合
損傷レベルで心因性勃起障害の頻度に差がありますが、脊髄損傷は高確率で心因性勃起障害を引き起こします。
②反射性勃起
反射性勃起とは、陰茎などの直接刺激に対して、反射的に勃起する現象をいいます。
心因性勃起では、脳(視床下部)からの信号で勃起しますが、反射性勃起では、脳は関与しません。
導尿による陰茎への刺激で勃起する現象は、反射性勃起です。
脊髄損傷により、反射性勃起障害は生じます。
しかし、心因性勃起障害と比較すると頻度は少く、約半数程度です。
<反射性勃起が「よくある」「たまにある」と回答した割合>
- 完全麻痺の方 64%
- 不完全麻痺の方 45%
- 完全麻痺:損傷部位の運動機能が完全に消失し、感覚も消失している状態
- 不完全麻痺:損傷部位の運動機能や感覚が、完全には失っていない状態
<損傷レベルごとの反射性勃起障害の割合>
- 頸髄(C) 25%
- 上部胸髄(Th1〜6) 30%
- 下部胸髄(Th7〜12) 45%
- 腰髄(L) 80%
※完全麻痺で、心因性勃起が「まったくない」「ほとんどない」と回答した割合
損傷レベルによって、反射性勃起障害の頻度は大きな差があります。
損傷部位が頸髄・胸髄の場合、反射性勃起障害の頻度は50%以下と低いです。
一方、損傷部位が腰髄の場合は、その頻度は80%と高頻度です。
反射性勃起において重要な役割を果たす勃起中枢が、仙髄(S2−4)に存在するためです。
射精障害
脊髄損傷による射精障害は、勃起障害の頻度よりも更に高くなります。
脊髄損傷患者の射精率は3〜15%と言われています。
射精に至るまで勃起を持続することが困難であること、射精中枢である腰髄交感神経中枢が障害されやすいことが原因と考えられます。
性行為での障害
脊髄損傷による精神的、身体的ハードルにより、性交渉が困難になる場合が多いです。
しかし、パートナーと良好な関係を結び、二人で工夫することで、性行為は可能です。
- 受傷後に性交渉の経験が「ある」と回答 49%(77人/128人)
- 性交渉が「うまくできた」と回答 25%(19人/128人)
- 未婚者で性的パートナーがいる 29%(17人/59人)
- 性行為の体位
- 女性上位(騎乗位) 58%
- 正常位 28%
- 側臥位 8%
アンケート結果からも、障害を克服して性行為を成功している方々がいることが分かります。
勃起障害(ED)への対応
PDE5阻害薬
脊髄損傷による勃起障害の治療薬は、PDE5阻害薬が第一選択になります。
PDE5阻害薬は陰茎海綿体の血管拡張をサポートし、勃起は強く、持続します。
PDE5阻害薬は、ED治療薬として世界中で一般的に使用されています。
国内で認可されているものは、バイアグラ、レビトラ、シアリスの3種類になります。
3種類のED治療薬の比較はコチラで解説しています。
<脊損男性に対するPDE5阻害薬の有効性>
- バイアグラ 85%
- レビトラ 74%
脊損患者に対して、PDE5阻害薬の高い有効性と安全性は証明されています。
心因性もしくは反射性勃起いずれかが残存していれば有効性は高く、脊損の障害レベルで有効性に差はありませんでした。
脊髄損傷による勃起障害は、PDE5阻害薬を使用することにより高い確率で改善します。
プロスタグランディンE1海綿体注射
性行為前に血管拡張薬であるプロスタグランディンE1を陰茎海綿体に自己注射します。
注射後10分以内に勃起が発現し、30分以上勃起は持続します。
国内ではプロスタグランディンE1陰茎海綿体注射は治療薬としては認可されていません。
しかし、世界中で治療として使用されています。
(国内でも、プロスタグランディンE1陰茎海綿体注射は検査で使用されています。)
バイアグラなどのPDE5阻害薬で勃起の改善が乏しい場合に、プロスタグランディンE1陰茎海綿体注射の適応を検討します。
陰圧式勃起補助器具
筒状のシリンダーを陰茎に装着し、シリンダー内を陰圧にすることで陰茎を勃起させます。
勃起した状態で、陰茎の根本をバンドで締め付け、勃起を維持します。
これらの操作には、手の巧妙性が必要です。脊髄損傷による上肢の運動障害がある場合、パートナーに操作してもらうとよいでしょう。
厚生労働省は上記の「VCD歓喜」を医療用具として認可しており、インターネットで購入することができます。
陰茎プロテーシス挿入
引用:MAYO CLINIC
陰茎海綿体内に医療用シリコンの支柱を手術で挿入します。
望んだ際に勃起することができ、望むだけ勃起を持続させることができます。
しかし、男性のオーガズムは期待できません。
引用)東邦大学医療センター
脊髄損傷患者の尿路感染の頻度は多く、プロテーシスに感染が波及すると、摘出する必要があります。
全国脊髄損傷連合会の調査によると、プロテーシス挿入した13.3%が10年以内に摘出手術を受けています。
射精障害への対策
塩酸ヨヒンビン
アフリカに自生しているヨヒンベという樹木の樹皮から抽出される生薬で、古くから媚薬としても使用されています。
精力増強、催淫効果があり、バイアグラが発売される以前はED治療薬治療薬として使用されていました。
脊髄損傷による射精障害は、勃起障害よりも深刻ですが、ヨヒンビンが射精障害に有効と考えられています。
膣内射精障害で悩む72人(平均年齢45.4歳)を対象にした研究で、ヨヒンビン5㎎を性行為1時間前に服用したところ、60%の方が射精に成功しました。
引用)天野俊康. 他: 射精障害に対するヨヒンビン製剤の治療効果. 日性会誌 17: 225-228. 2002
ヨヒンビンの購入するのに、処方箋は必要なく、薬局で購入することができます。
しかし、現在国内での購入は供給の問題から困難であり、海外から個人輸入するしかありません。
バイブレーター法
陰茎亀頭部をバイブレーター刺激することで射精を誘発します。
上記イラストは、射精誘発専用のバイブレーターで、
下記の至適条件を満たすと、高確率で射精に成功すると言われています。
<射精するための振動の至適条件>
- 振幅 2.5 mm
- 振動数 100 Hz
- 冠状溝直下の包皮小体を刺激
イギリスでの研究では、脊髄損傷患者93人中、49人が射精に成功しました。
引用)Brindley GS: The fertility of men with spinal injuries. Paraplegia 1984; 22: 337-348
射精誘発専用のバイブレーターを国内で購入するのは困難ですが、
市販の電気マッサージ器で代用できるかもしれません。
子づくりへの対策
生殖補助技術(ART)
脊髄損傷により性交渉が困難だとしても、妊娠にいたる手段はあります。
医療の発達に伴い、経膣性交以外にも妊娠する方法があるからです。
①子宮内人工授精(IUI)
排卵日当日に、運動良好な精子を顕微鏡で選び、細いチューブで子宮の中に注入します。
精子が自力で卵管を泳ぎ、卵にたどり着くことで受精します。
引用)アートクリニックHP
②体外受精(IVF)
採取した精子と卵子をシャーレ内で受精させます。受精卵を一定期間培養し、子宮内に戻します。
精子へのケア
受精率を上げるために、精液を良好に保つことが重要です。
精子数が少なかったり、精子運動率が低いと、生殖補助技術(ART)の助けを借りたとしても、受精率は低くなってしまうからです
<脊髄損傷患者の精液の状態が悪くなる原因>
- 長期間射精していない
- 長時間の座位で、陰嚢に熱がこもる
- 男性ホルモンの低下
- 精神的なストレス
脊髄損傷患者の精液の状態は悪くなやすいです。
数年ぶりに射精した場合、精液が茶色で驚いたとのエピソードを聞いたことがあります。
精液が茶色なのは、上記の理由で精液の状態が一過性に悪くなっているからです。
<精液を良好に保つ具体的な方法>
- 定期的に射精する(少なくとも月に数回)
- 足を開いて座る
- 陰嚢分離型の下着を着用する
- 男性ホルモンの補充を検討する
特に、定期的に射精することは、精子の質と量を改善する上で重要です。
可能であれは、月に数回射精することが好ましいです。
定期的に射精することで、精子の産生は促進し、精子の数や運動率は改善します。
定期的に射精するためにはコチラを参照下さい。
>>射精障害への対応
パートナーとの関係
たとえ脊髄損傷による数々の制限があったとしても、性行為を行うことができます。
障害についてパートナーと話し合い、様々な工夫をすることで、乗り越えることができるからです。
アンケート結果からも、多くの脊髄損傷患者が性行為を経験していることが分かります。
性行為はパートナーとの愛情表現の1つであると考えます。
身体、性のことについて、パートナーと事前に話し合い、性行為の前に十分は準備をするようにしましょう。
できないことばかりに注目するのではなく、できることを見つける姿勢が大切だと考えます。
まとめ
脊髄損傷による勃起障害、射精障害は、薬剤や器具の補助により、高い確率で改善します。
パートナーと様々な工夫することで、性行為、子作りも可能です。
しかし、性的活動に伴う痙性や自律神経過緊張の出現には注意が必要です。
事前に専門家から十分な教育を受けることをお勧めします。
当院(神戸三宮バッファローEDクリニック)はED治療に特化したクリニックです。
EDをはじめとした性機能障害に対して、包括的なアプローチを心がけています。
もし、性機能障害に関して周囲に相談が難しければ、是非当院にご連絡下さい。
公式LINEからのお問い合わせは簡便にご利用できます。
診察・相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせ下さい。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
神戸三宮バッファローEDクリニック院長
- 診察時間 15:00〜20:00 (月〜日・祝)
- 電話番号 078-335-8663
- 公式LINE https://lin.ee/6dzquLo
- アクセス
- JR「三ノ宮駅」徒歩1分
- 阪急「神戸三宮駅」徒歩1分